五十路手前のオンナの腹の中


by umitai513
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【Thank you for・・・】

世紀の問題作・山田悠介著【リアル鬼ごっこ】を遥かに凌ぐ、
超駄文を読む暇はあるか?覚悟は出来ているか?






【Thank you for・・・】


「私達、もう終わりね」と彼女が僕にそう言った。
数週間前の蒸し暑い雨の日の午後だった。

その時の彼女の口調には、僕に対する未練や責め、
ましてや脅しなどの要素は全く入っておらず、
極々いつもどおりの柔らかなものだった。
ただ、僕たちの関係がもう終わる事だけは決して揺るがないのだと、
ボクに知らしめるのに充分な確固たる響きを帯びていた。

その時僕はどう答えたのかな。
そう、確か「何を急に?」なんて間抜けた事を言ったんだった。
ちょっと上ずった声で。
すると、彼女は僕の目を覗きこんで小首をかしげた。
「急じゃないでしょ?」と言いたげに。

そう。急じゃない。

僕にも別れの時が近づいてきている事は分かっていた。
いや、もっと正確に言うと、僕たちの関係は出会った時から別れを内包していた。
だからこそ、僕は彼女にのめり込んで行ったのかもしれない。
いつか必ず失うであろう彼女との時間はいつも甘美で、
常に僕は頭の片隅で別れを意識しながら彼女に包まれおぼれて行ったのだ。
だが、いつの日からか、彼女と関係を重ねるうちに
僕は故意に別れから目を逸らし気が付かないフリをしていった。
なぜなら、彼女を失うのを想像するだけでも怖くなってしまったから。
僕はそれほどまでに彼女に夢中になっていた。愛してしまっていた。もう手遅れだった。



僕の目を覗き込んだ彼女は少し寂しげに微笑んで、
「ごめんね」と一言だけ言った。
謝ることなど何もないのに。
むしろ僕の方が彼女に謝らないといけないのだ。
僕は彼女を愛するあまり、寝ても醒めても彼女を求めてしまった。
彼女はそんな僕の求めに嫌な顔ひとつせず優しく僕を包み応じてくれていた。
ただ、最近の彼女はかなり疲れ果て消耗しているみたいだった。
その事は僕も確かに把握していた。
なのに、僕は彼女の変化に気が付いていながらも貪欲に彼女を求めつづけた。
僕の全てを愛して欲しい。受け入れて欲しい。
そんな事ばかりを彼女に突きつけていた。



目の前にいる彼女を一瞬見つめた。
彼女の潤んだ瞳。柔らかい表情。優しい香り。
僕は思わず彼女を抱きしめてしまいそうになるのを必死で堪えた。
そんな僕の内心を悟ってか彼女は優しく僕の顔を撫でてこう言った。

「今までありがとう」

彼女のまっすぐで優しい瞳が僕を射抜く。
僕は何も言えず俯いた。
僕はいつも肝心な時に目を逸らしてしまう。
雨音が一層大きくなったように聞こえた。



それから数日後、彼女はキレイさっぱり僕の前から消えた。




彼女を失ってからは1日1日が重く過ぎて行った。
僕は産まれて初めて時間に重さがあるのを知った。
この重くのしかかってくる孤独をいう時間。
僕は彼女を知らずに居た頃のこの時間の中を一体どうやって生きてきたのだろうか。
思い出せない。
そして、それは果たして生きていたと言えるのだろうか。
分からない。
僕は彼女に出会って初めて産まれ、そして生きたような気がする。

彼女の居ない人生はもはや僕の人生ではない。


今はこの身を取り巻く全てのものが虚ろだ。
だが、僕は彼女と必ず再会できるのだとそれだけは強く確信していた。
なぜなら、こんなにも愛し求めてやまない相手を永遠に失うなんてことは絶対にありえないと思っていたから。心から欲する気持ちはいつか必ずどんなカタチであれ彼女と僕とを結びつけてくれると信じていた。
そして、きっと、今もどこかで彼女も僕を求めてくれているはずだと。
そう信じていなければ一歩も前には進めそうにもなかった。



そして、今日、僕は彼女と再会した。
いや、まだ再会してはいない。
僕が彼女を見つけた事を彼女はまだ気が付いていないのだから。

こんなところで再び逢えるなんて。

少し離れたところからでも僕には彼女だとはっきりと分かった。
彼女は出会った頃と全く変わらず、古風な空気を纏い、
やや時代遅れで野暮ったいいでたちをして、
周りのきらびやかな娘達の傍らに控えめに佇んでいた。

一見、お堅い優等生タイプの彼女は、
他の魅力をふんだんに振りまいている娘達とは見劣りしそうだけれど、
僕は彼女の内面が優しく可憐で、そして、時にたおやかだという事を良く知っている。
早く彼女に再びこの手で触れたい。抱きしめたい。あの柔らかさを確かめたい。
そして、また僕の全てを受け入れ包み込んで欲しい。

僕ははやる気持ちを抑え切れず彼女の元へと駆け出した。
そして、すぐに足を止めた。いや、止まってしまった。

彼女は僕を見て一体どんな反応をするだろう?
戸惑うだろうか?
拒絶するだろうか?

急に彼女の反応が怖くなった。

今までさんざん彼女の気持ちを省みず、
自分の欲求の赴くままを彼女に強いてきたにも関わらず、
今になって彼女の反応が怖くなるだなんて僕という男はなんて身勝手なのだろう。
こんな自分が恥ずかしい。そして、今までの自分が恥ずかしい。


ごめん・・・。


彼女と視線がぶつかった。
そして、絡んだ。
あのまっすぐな瞳がまた僕を射抜く。
僕の全てを知り尽くしている彼女の事だから、
今の僕の逡巡をつぶさに読み取ったに違いない。
僕は覚悟を決めた。
そして、ゆっくり彼女の元へ近づいて行った。ただひたすらまっすぐに。



彼女の目の前に立った。
手を伸ばせば届く距離に彼女が居る。
「やあ。しばらく」
笑いかけた顔が不自然に歪んでいるのが自分でも分かる。
「うん。ひさしぶり」「・・外は雨が降ってるの?」
彼女は僕の濡れている頭や肩に目をやりながら心配そうに言った。
「うん、急に降りだしてね。雨宿りがてら入ってみたんだ」
「そう。じゃあ、偶然ね」
彼女はあの優しい瞳で僕を見上げながら言った。
ああそうだ、彼女はいつもこんな柔らかい声だった。そして小柄だったな。
僕は愛おしむ目で彼女を見つめ続けた。
今度は目を逸らさなかった。
「そうだね。偶然だね。で、君に似た子を探していたら君に会ってしまった」
「そうなの」
彼女が可笑しそうに僕の顔を覗き込んできた。
僕は今更何をかっこつけているのだろう。
「いや、違うな。偶然は本当だけど、やっぱりそれは嘘だよ。本当は僕は君だけを探していたんだ。君に似た子なんていらないから」
「そう」彼女の瞳が和らいだ。「ありが・・」
「ありがとう」
「え?」
彼女が言い終わる前に僕の口からずっと伝えたかった言葉が飛び出だした。「ありがとう」。
「え?どうしたの急に?」
「急じゃないよ。ずっと言いたかったんだ・・・。出会えてありがとう。また逢えてありがとうって」
「なんだか変な日本語ね」
「確かに変だけど、でもこれが僕の本当の気持ちなんだよ。それと・・・」
「それと?」
「これからもありがとう」
「これからも・・・」
「そう、これからも・・・。これからもずっと僕の側に居てくれるだろう?君の居ない人生は虚し過ぎるんだよ。僕は君が居ないと生きていないも同然なんだ。もうボロボロなんだよ。だから、お願いだ、これからも僕の顔を優しく洗ってくれ、ロゼット」




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ロゼットが緩やかに微笑んだ。
「ありがとう。私こそ、これからもありがとう・・・。だけどね」
「だけど?」
「だけど、もう私をボディソープの代わりにしないでね」
「それは・・」僕が口ごもり、そして意味ありげにニヤリと笑うと、
ロゼットは「もお」と言って僕を軽くキッと睨んだ。そして、すぐに破顔した。
それは僕が愛する花が咲いたような素晴らしい笑顔だった。
つられて僕も笑った。今度は上手く笑えたと思う。


「お買い上げありがとうございました」

レジ係りの女性の声に送り出されて僕達はドラッグストアを後にした。
雨はもうやんでいた。






ワタシが愛用している洗顔料「ロゼット」を新しく買う度に、
この手の妄想で脳がクンクンに充満して苦しいので、
昨日に我が最愛のムスコが昼寝している間に書き出してしまいました。
で、恥も外聞も無くこうして日記にて垂れ流し。
恥の多い人生でした。いや、です。
えらいすんません。
Commented by covaemon at 2007-07-23 10:35
恥を知ることは、大事です。
Commented by umitai513 at 2007-07-24 07:57
>covaemonさん
何と返していいのか分からないご指摘、「ありがとうございます」。うくく(笑)
by umitai513 | 2007-07-22 15:45 | 日常ネタ | Comments(2)